家を離れる時が来て、おもちゃはみんな置いてきた。
抱き人形とまるちゃんはわたしのバッグに入って一緒に行くことになった。
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くたびれ はてこのことを語る
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母はその後いくつか人形や人形の服を作ってくれた。
6歳の誕生日に着せ替えの抱き人形を作ってくれたし、手の込んだリカちゃん人形の服も何枚か作ってくれた。
どれもうれしかったけれど、それらはおもちゃだった。
おもちゃは言うなれば遊び仲間で、抱き人形は子供のようなものだった。
でもまるちゃんは違った。まるちゃんはわたしを見守るものだった。
わたしは毎晩抱き人形と眠って、リカちゃん人形で遊んだけれど、まるちゃんとの絆は強かった。
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翌朝目が覚めると枕元に一風変わった人形があった。
大きさは大人の手のひらほどで、親指に手足が付いたような形をしている。
胴体は深い紺に紫と桃色の花柄の別珍で、親指の爪の部分が顔だった。
かまぼこ型の白い顔は木綿で、黒いボタンの目と赤糸の口があり、灰色の毛糸の前髪があった。
この人形は、ゴム鉄砲を作ってもらえないわたしを不憫に思った母が夜のうちに作ってくれたものだった。
わたしはそのころ好きだった絵本に出てくる名前をとって、まるちゃんと名づけた。
まるちゃんはいい人形だった。
綿が少なく厚手の鍋つかみのようだったけれど、どことなく安心感があり、頼もしかった。
わたしははじめて、女の子に生まれてよかったと思った。だってまるちゃんがもらえたんだもの。
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その夜わたしはそれはそれは悲しい気持ちで眠りについた。
その頃母はスポック博士の育児書にはまっており、わたしは一人で家族と離れた部屋に寝かされていた。
母はわたしを一人で寝かせることでアメリカ式に自立を促そうと思っていたようだった。
年子の弟と二人分の面倒を見なくてすむという利点もあった。
最初の夜、わたしがあんまり泣くので兄も泣き出して一緒に寝かせてあげてと懇願した。
母は自立と実利のため兄の願いを却下した。
わたしの「自立した」「女の子」教育は2歳で始まっていたといえる。
当事者にとっては得するところが一つもない制度だった。
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まるちゃんのこと。
3歳のころ、父が兄と弟に割り箸でゴム鉄砲を作ってくれた。
けっこう凝った作りで装飾も立派だった。長男である6歳の兄は2歳の弟よりさらに立派。
そしてわたしの分はなかった。悲嘆にくれるはてこに父は「これは男の子のおもちゃだから」と言った。
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サイボーグのお父さんがスプーンで缶詰を開けたり、野生の鹿を仕留めて捌いたり、スズメバチを定点観測したり、
野鳥を撃って毟って料理したりする姿を身近で見るのは得難い財産ですよね。
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母はわたしともちおと仲睦まじくいつも通りありのままに過ごしていると
「まあ、パパにそんなことしたら大変なことになったわよ」
「もちおさん、すみません。はてこがこんなで」
と始終小言を言う。でもわたしが母みたいだったらもちおは一日も持つまい。
ていうか、母がかくあるべしと思った方法で夫婦仲がどうなったか、考えてみればいいと思う。
とはいえ土曜日に二人でwii-fitで遊んだあとベッドで漫画回し読みしてたりすると、
親が自分の年齢だったときとあまりに違うことに気付いて呆然とする。
次の世代の人たち、その次の世代の人たちの家庭ってどんな風なんだろう。
外国の家庭を想像するような気持ちだ。
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祖父の墓参りに行ったときのこと。
一通り掃除が済んで、さて手を合わせましょうという段になって突然母が
「じゃあ男の人から・・・」
と言い出し、夫と甥が先に手を合わせることになった。
いや、あなたのお父さまでしょう? あなたが一番でいいんじゃないですか?
ていうかひ孫はまだ分かるけど、夫は一番縁遠いよね?
と色々なことを思ったけれど、それで母の気が済むならいいかと思って黙っておいた。
子育て中、口では「男を立てるなんてバッカみたーい!」くらいの勢いだったのに
今になって唐突にこういうことを言い出すので戸惑う。
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祖母なんかうちの身内の浮気が発覚したときに、嫁いでこられたよそさまの御嬢さんに
「男の人はきれいなお花が咲いていたらそこに行かずにいられないのよ。でも待っていれば必ず戻ってくるわ」
って言ってあげたのよ、とか言うんだもの。内孫ならわかるけど、お嫁さんにそれはないだろう。
そいで別の身内の奥さんの浮気が発覚した時はそりゃあ厳しいこと言ったらしい。
男の浮気は当たり前。女の浮気は言語道断。それが当たり前みたい。
「そしたらあとで娘ちゃんが『ママ、おばあちゃまに怒られてたネ』って言ったんですって」
幼児が聞いてる前で言ったんかい。
ちなみに祖母の大正アドバイスを受けたお嬢さん二人は、いずれもご実家へ帰ってしまった。
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従弟に今年子供が生まれた。従弟は毎日赤ちゃんを抱っこして実家と婚家を往復しているらしい。
もしもわたしが従弟の歳で出産して夫がそれをやっていたら、親族は大騒ぎしたと思う。
でも従弟の母である叔母も祖母も、
「どう、うちの息子ちゃんてとっても進んだ父親でしょ? ふふーん!」
と思っているみたい。これはたぶんに「育メンカッコヨス」というマスコミの影響だと思う。
だってこの人たちいまだにものすごい男尊女卑だからね。叔母と祖母の中では
「立派な男性」の属性に、育児がちょっぴり入ったということだと思う。
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こういうのって、「これは間違っているからこうしましょう!!!」と声高に言ってもなかなか変化しない。
でも「ダッセェ」「かっこいい!」が入ると、人は動く。
なので、タレントのアイドルママ化が進むのはいいことじゃないかなと思う。
出産して育児しながらおしゃれもする、きゃーすてき! というのは、出産のハードル下がる気がする。
「育メンすてきかっこいい!」というのが進むのもいい傾向だと思う。
そんな父親母親は軟派でいかん! と思う人も出るに違いない。
でもかっこいいもの、人気のあるものを人は求めるし、需要のあるところではお金も動く。
お金が動くといろんな物やサービスが作られる。それを買ってくれる人が優遇されるように制度が動く。
そうやって、わたしの下の世代のみなさんが社会的に子育てしやすい環境で暮らせるといいと思う。
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わたしは個人的に親の呪縛だけでなく、自分と夫の間のあれこれがあってこの年まで子供を持たなかった。
でも、もしかしたらわたしたちは世代的に家庭をもって子供を産むのが難しかったんじゃないかな。
産んでも産まなくてもがちゃがちゃ言われるし、モデルにするものがないから。
家事も育児も配偶者と協力し合って家庭を持ちたいと思って育っているのに、
男性の方はそんな風に育てられていなくて、それどころかそれは男の恥だと叩き込まれているんだもの。
しかも双方の親は「家庭を持つこと=女は家事育児に打ち込むこと」と考えていたりする。
一方で女性の自立は必須項目だから、「自立=家事育児と仕事を同じレベルでこなすこと」ということに。
そんなの結婚する前に考えたら圧倒されるから結婚も出産も二の足踏む。
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この「ウーマンリブ」のどの辺が中途半端なのかというと、親世代の思想の根底には
「本来男は立てるものだけれども、」
という但し書きがついているということ。そして無意識に
「家事と育児は女がやるもの」
と思い込んでいること。
親世代の考える「自立した女性」は、家事や育児を外注することはあっても夫には頼まない。
それは自立した女性じゃなくてだらしない女性であり、妻失格であり、人間としてダメ。
だからいざ娘が夫にお茶を淹れてもらっているのを目にしたりすると逆上したりする。
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わたしは団塊ベビーの末っ子世代なんだけど、わたしの親世代は中途半端なウーマンリブ思想が多かった気がする。
娘には新しい女性として男性と肩を並べてほしい。
仕事も遊びも学業もスポーツも、女性だからって引っ込んでないで男性に勝つぐらいの勢いで行ってほしい。
結婚して家庭に縛られたりせず、夢を実現して自立した女性になってほしい。
でもここでいう夢って往々にして娘自身の夢じゃなくて、親世代が叶わなかったり叶えなかったりした夢なんだよね。
だから娘が自分のやりたいことをやろうとするとばんばん横やりが入る。
実は自立は望まれていなくて、実態は「傀儡としてがんばってね」に近いこともある。
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団塊世代から一息おいて、戦後がやや遠くなったころに生まれた姑も息子の育児には納得いかない様子。
「最近は育メンとか言うけどねえ、私の時は一人で四人育てたんよ?」
姑は専業主婦、義妹は出産当時社員。
加えて義弟は転職期間中で家にいたんだから自分の子の面倒を見るのは当たり前だと思うんだけどなぜ。
大手小町を見ていると釣りなのかネタなのか、こういうお姑さんや旦那さんが出てきて
「フルタイムで働いている嫁が家事や育児を夫に手伝わせる。全部嫁にやらせるには」
とちょいちょい書いて、袋叩きに遭っている。
これも10年前だったら風向きが違ったのかもしれないな。
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あれほど新しい世代を望んでいた団塊世代の母もどこか不服らしい。
「最近の男性は驚くほど子供の面倒を見るわね」
と一応ほめてから
「女の子は父親がいくら甘やかしてもいいけど、男の子を育てるにはあれじゃダメ」
「父親は恐ろしくて、超えていかなきゃいけない存在じゃないといけないってラジオで言ってて」
とうるさい。
愛される父親と尊敬され畏怖の念を抱かれる父親が両立しえないと思っているのか。
いや、単に自分の時と違うから困惑して、自分の時代を正当化する理由付けを探しているんだと思う。
子供にめろめろな父親がいる国なんてたくさんあると思うしね。
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育児を取り巻く環境はもちろん職場に限った話ではない。
こないだ駅前でかっこいい男の人が首から下げるバッグみたいものに赤ちゃんを入れて平然と歩いていて、
「これから出生率伸びるだろうなあ」
と思った。スリング(?)のデザインも素敵だった。
こういうことをする男性がほんの10年前、駅前で歩いていたら
「情けない」「母親は何をしているんだ」「かわいそうに」
と公然と言い放つ人が大勢いたいと思う。ほんとに10年ひと昔だ。
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先進国の出生率はU字型に回復する 日経7/30
丸尾さんによれば先進国は経済の発展に伴って働く女性が増え、その過程で出生率が低下傾向になる。
だが、仕事と子育ての両立支援策を政府や企業が整えると上昇傾向に転じるという。
北欧諸国では早くから女性が働きやすい環境を整備し、80年代ごろを底に上向いた。
ほかの欧州連合(EU)全体の08年の出生率は1.60で、比較可能な03年以降6年連続で伸びている。
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/くたびれ はてこ
