id:discordance
自分がSF小説を執筆するとしたらのことを語る

メキシコの発明家によって開発された未来を予見する機械が最初に映し出した未来は、2万5千年後の地球だった。機械によれば、2万5千年後の地球は地軸の変動により緩やかな氷河期が始まっていてる。静かなる死の時代。ほとんどの哺乳類が死滅した世界で、トナカイだけが環境に適応し現代と比べて個体数を大きく減少させずに生存していた。

発明家はトナカイの個体数を指標として、それぞれの時代での様々な動物の絶滅の変遷を観察しようとしたが、すぐにある異変に気がついた。他の動物が急激な個体数減少を示す中、トナカイの個体数だけが近年から2万5千年後にかけて一切増加せず、ただなだらかに減少を続けているのだった。発明家は、どういう経緯をたどればこのような結果に結びつくのか、まったく想像がつかなかった。そのうち機械の出力する未来がすべてデタラメだと確信して、一笑に付して未来の研究をやめた。

16年後。発明家は病床で枕元のラジオの雑音混じりの声をぼんやりと聞いた。
偶蹄目?奇病が?2週間で絶滅?トナカイだけが?蘇生?
発明家は何かを思い出しかけて、すぐに諦めた。右肩下がりの厭な直線が頭によぎったが、それが何だかはわからなかった。