高校1年のとき、授業中男子生徒の態度にキレた男子教師が生徒を立たせ、ばっしんばっしん叩き始めた。
当時はビンタの一発二発当たり前という風潮だったが、これはちょっと行き過ぎじゃない?!というレベル。
クラス中が固唾を飲んでいたら、一人の男子生徒がすっと立ち上がり、教師の振り上げた手をガッと掴んで
「先生、もうよかろうが」
と言った。怒りに燃えた教師と肝の座った眼でたたずむ男子生徒。静まり返る教室。
「○○ぅ、おまえ、放課後柔道部の部室へ来い。いいな」
教師は柔道部顧問であった。ヒーロー男子は黙って頷き、叩かれていた生徒も放免され、席に着いた。
当時は体育会系の部活でリンチまがいのしごきも当たり前だったので、クラスは今度はそっちで緊張した。
翌日ヒーロー男子が登校したので、みんなで彼を囲んで昨日どうなったのかを聞いた。
「『おまえ柔道部に入らんか』っち言われた」
と言っていた。当時はこういう態度は男気があると歓迎されたものであった。
その後、わたしの友だちの女の子が林間学校のフォークダンスで彼に当たった。
「フォークダンスとかだっせぇ」
という照れと決まりの悪さでみんなだらだら半端に手も繋がず踊っていたなかで、彼は彼女に
「踊ろうや」
と明るく提案してきて、二人は手をしっかり繋いでそのターンを楽しく踊ったとのことだった。
顔も名前も思い出せないけれど、もっと眺めていたい男であったなと思う。