id:kutabirehateko は
昔起きたことをありのままに話すとのことを語る

肩と肩が触れ合う程度に混んだ午後の中央線の床に
お白洲状態でうつむいて座り込んでいる60代前後の女性がいた。
具合が悪いということに関してドリフのコント並みの明確さがあった。
前で座っている二十代らしき女性は頑として目をつぶっている。二人は
「目の前に人がいるなんてまったく気付かなくて」という調子で互いを見ない。
それなのに我慢大会をしているような緊張感が周囲に漂っていた。

シルバーシートにいけばいいのにな、と思いつつ数駅見ていたらおもむろに吐いた。
目の前に座ってじっと目をつぶっていた女性が驚きの反射神経で立ち上がり、
吐しゃ物を前に肩で息する女性の周辺がモーセを前にした紅海の水のように引いた。

たまたまビニール袋を持ち合わせていたので急いでティッシュを入れ、袋を差し出し
「どなたかティッシュをお持ちじゃありませんか」
と声をかけたら遠くから何人かティッシュを差し出してくれた。前に座っていた女性もくれた。
吐しゃ物にティッシュをかぶせて踏んづけて吸い取り足でまとめ、
先の袋にまとめて捨て、弱々しげに席に着いたモーセについて次の駅で降りた。

ミズ・モーセに水道で口を漱がせ、買った水を飲ませ、バスのロータリーまで送った。
「これから墓まいりに行くんです・・・親の・・・」
とモーセは言った。
「そうなんですか。ご気分はいかがですか」
「ええもう本当に・・・親は普通の死に方じゃなかったんです」
とモーセは言った。なんかこう、社内とはまた違う大丈夫じゃない感があった。
「そうだったんですか」
「ええ、殺されたんです・・・!」
わたしは突っ込んでほしいのか、突っ込むべきじゃないのかわからずただ頷いてバスを見送った。

ミズ・モーセが席を譲ってくれるよう口にすることも出来ないほど弱々しく自己主張できない人なのか、
実力行使で周囲を征服するほど自己主張が激しい人なのかわからないと思った。