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勝手に引用のことを語る

――私は「バラ物語」の一部分と、もう一つのお話を声を出して読み、奥方は満足してくれました。私が同じ言葉のつづりが変わっていることをいうと、奥方は、
 「つづりは、人それぞれのこと」といいました。「私には私の好みのつづりがあり、すきなように文字をえらぶ。私の息子たちも娘たちも、それぞれ、すきなようにしている。おまえもそうであろう?」
 「まちがえると叱られます」と私がいうと、奥方は、まちがえることなどあるはずがないといいました。そして、言葉は、だれでも自分の気分にまかせてつづればよいのであり、それが書くことのよろこびの一つであって、人には美しい言葉を作りだす自由がある、といいました。そして、おまえもいつもいつも同じつづりで書くようなつまらない者であってはいけない、といいました。
(アリソン・アトリー『時の旅人』)