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勝手に引用のことを語る

屋敷をあとにしてから一時間もたたないうちに、ふさぎこんでいた気持ちが変化した。屋敷でもらった長靴を履いて歩いているうちに、なぜかはわからなかったが、かつて若かったときも、老いた今も、自分の人生は無駄ではなかったのだという認識に突然見舞われた。そして、この旅は死に向かう旅路ではないと、不意に悟ったのである。
ウィリアム・トレヴァー著、栩木伸明訳「聖母の贈り物」『聖母の贈り物』国書刊行会、2007、p368。