それと、大人であることの条件に関連することですが、最近思っているのは、人間には裏があってしかるべきなのに、いつから裏を認めなくなったのかということですね。つまり、理想と現実、経済の話もそうですが、ブレていることを重要視したいわけですよ。自分と世の中との間には当然ギャップがあり、そこを持ちこたえて、ブレるというのが人間のあり方だと思うんですが、いつの間にか世の中に対応して生きるのが人間であって、それの背後にある裏はないようにしようとなった。それは、現実の中で自分を持ちこたえる能力がなくなってしまったからかもしれないですね。
『atプラス04』2010年5月「橋本治vs山形浩生対談」