id:discordance
ほかの人があまりしていないような経験はありますかのことを語る

J島の散髪屋を初めて訪れるエナガ師匠のフィールドワークに同行したら、『J島ではヤドカリ(アマガニ)を食べなさい』という天の声がハイクに書き込まれた。右往左往の末、ヤドカリの味噌汁を提供する店を見つけ出して二人でおそるおそる入店することにした。店内は閑散としていて、はじめ注文方法もわからずまごついたが、なんとかヤドカリの味噌汁を注文し着席。配膳された大きめの椀からだらしなく伸びる毛ガニのような甲殻類の足をみて、ほーとかへーとかうひゃーと言いながら、味噌汁をずるずる啜るエナガ師匠と私であったが、我々の背後には新たな来客の気配があった。男性は入店するなり店の女将と思しき女性に向かって、ナツカシイナツカシイというようなことを言って、自分はカツテこの土地に住んでいたことがあり、アナタとは60年ぶりの再開ナノデス、というようなことを伝えた。女将はひどく狼狽えたあと、やはりアーナツカシイナツカシイというようなことを言う。ヤドカリの足をしゃぶるハイカーズ二人の背後で、二人の男女の時空を超えた感動の再開が始まったのだった。あの時点では芸能界を引退していた島田紳助の生霊が降臨して、涙ながらに「女将さん、我々見つけ出しましたよ」と言うのが聞こえたような気がした。人生の大半がミッシングリンクとも言える男性客と女将の話は尽きず、外に家族を待たせているという男性客を見送りがてら店外でまた少し話し込む二人。そんな心温まる再開シーンで満腹になりいそいそと会計をして退店した私とエナガ師匠だったが、結局ヤドカリがどんな味だったのかはさっぱりわからなくなった。