ゴリゴリゴリ。靴べらを少し大きくしたぐらいの水牛の角で、背中をじかにこする。血の流れをよくして体にたまった老廃物を追い出すという中国の伝統的な健康法「グワシャー」だ。
私は風邪をひきそうになると、お世話になる。今回は、大気汚染でのどを痛めて声がかすれ、「ゴリゴリ」に駆け込んだ。
現れたのは東北・吉林省出身の中年女性。初めは「冷え性にはナツメがよい」などと話していたが、私が日本人だとわかったとたん「国家は国家。庶民は庶民」と言う。「マッサージの時ぐらい日中関係を忘れたい」と寝たふりをしていたが、話し続ける。
「子供のころ近所の日本人の優しいおじいさんが日本語を教えてくれた。中国人と結婚した彼は子供がたくさんいた」「親切だった知り合いは日本人だったらしく、親戚が見つかって日本へ行った。寂しかった」ーー。そして、自分で何度も相槌をうつ。
「国家は国家。庶民は庶民」
セールストークかもしれないが、気持ちが暖まってくる。翌日、声が戻った。「ゴリゴリ」よりきっと、彼女の言葉が効いた。
朝日新聞朝刊. 2013.1.29. p. 14. 特派員メモ.北京.「ゴリゴリ」より効いた. 吉岡桂子.
勝手に引用のことを語る