大自然にわが身をさらけ出し、人間の可能性を問う人もいる。探検家・ノンフィクション作家の角幡唯介(36)は新年をカナダ北極圏で迎えた。太陽が出ない極夜の星々を六分儀で測って位置を割り出し、約530キロの徒歩単独行に挑んでいる。全地球測位システム(GPS)や衛星携帯電話はあえて持たない。
出発直前に旅の狙いを問うと、角幡はこう答えた。
「自然が持つ本来の凶暴性を体感し、どうやって身体を自然に深く潜り込ませるか。携帯やGPSはそれを阻害する要因になる。当然怖くて不安だが、一方で旅の喜びも増すと思う。」
便利すぎる日常への疑念が、昔ながらの探検へ駆り立てる。「創意工夫する過程と時間が消失してしまったら、人間は一体どこに存在すればいいのだろう」
朝日新聞朝刊. 2013.1.9. p.32. 希望は5 ローテク. メルロポンティの思想を手がかりに.