「流」東山彰良
・サービス精神満載。一つ一つのエピソードはアジア・台湾映画でよく観る切ない、ほろ苦い、チンピラでいっぱい。街もここもそこも映画に出てくる有名所で、作者は台北で生まれて育っているとはいっても、ある程度“わかりやすく盛り上がる場所”を選んで設定しているのかなぁと思いました。語り口も瑞々しくて、散りばめられた…というよりも、思いがけないところで絶妙に落としてくるユーモアもよかったです。
・エピソードがてんこもり過ぎ、語りが面白過ぎ、こういうところにこんなにボリュームを持たせて、このお話は一体どこへ行くのか?という疑問にハラハラしながら読み進めましたが、終わってみれば、必要だったかなぁ…うん、と納得できました
・最初の方の何かあると、老人の台詞だったり、主人公がそれを受け売りみたいに口にする格言みたいなのがなかなかよくて、ずっとこのパターンかと思ったら、中盤にはなくなっちゃって寂しかった。わかりにくいこの土地、この時代の人の精神性とか、社会性をさりげなく知らせる手段だったのかな。
・台湾、中国(大陸)、時折現れる日本の差違に「風土」の力というか壁というか(拒絶とか断絶の意味ではなく)、育むものの力を感じました。
・昨夜、読み終わった時には、最後の一文に違和感を覚えていたのですが、一晩経って、執拗とも思える数々のエピソード、とりわけ家族の話などを思い出して、すっと腑に落ちる思いがしました。なんだか、目が覚めたら明泉叔父のことばっかり思い出す。
・蒋介石が亡くなって、国家自体も大きな転換をするまでの十数年のお話だったのだけれど、長い喪だったのかなぁという気もするし、巨人と言われる人の“落とし前”(負だけの意味合いではなくて)と一緒に、前時代を生きた人々それぞれの“落とし前”をつける季節のお話だったようでもあって、主人公のアイデンティティが伝説みたいな何かじゃなくて、連綿と続く人、人、人の中にあるんだなぁとも思って、面白かったです
本読了のことを語る