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読了のことを語る

『ユダによれば』著者:ヘンリック・パナス
・聖書に描かれたようには死んでいなかった今や高齢のユダが、イエスの真実を求める友人に問われて、書簡によって自分の知る事柄を語るという話です。
・宗教、哲学、歴史に詳しいと、もっともっと面白かったろうと思いますが、その辺疎くても十分面白かったです。
・序の部分でユダに「どの言葉も観念であること」「どの観念も抽象であること」「抽象はその定義からして現実ではない。(略)現実に関する私たちの知識は、現実ならぬ観念の集合なのである」とか「この証言は歴史ではない。(略)すべての人間は虚言者であるからだ」と語らせることで「この作品はフィクションです」という注に代えるところとか、歴史とか哲学とかを下敷きに物語を描くことを楽しんでいるように感じました。でも、制作には40年かかったんだって。
・老人の繰り言と断りながら、話があちこち飛ぶのですが、読んでいるときは辛かったけど、読み終わってみるとよく出来ていたんだなぁと思いました。前半は聖書の創作の下敷きになったものを取り上げ、聖書自体がフィクションであることを解析し、中盤ではイエスの説いた教えをユダの哲学的思考のあれこれ(すみません。私にはあれこれとしか言えません)を用いて解析、後半直前くらいではユダヤ戦争という歴史を下敷きにこの後展開するイエスの死の真実の予習をさせて、リアリティを持たせています。
・そしてイエスの死のパートでは、そういった寄り道がほぼなく(或いはないように感じるくらい)怒濤の展開を見せました。それまでの「とても頭のいいおじいさんの繰り言」がここで一気に「ドラマ」に取って代わったようです。
・とにかく、私にはとても難しかったけれど、とても面白かったです。もっと読むべき方(知識とか関心とかそういうところで)が読んだ方が、本としては本意だろうなぁと申し訳なく思うけれど。面白かったですので、お薦めです。