- - 桜色 ---
ももいろの活き活きとしたピンクに比べ、桜のあえかなピンクは
「あはれ」の情趣を呼び覚ましやすい。
幼稚園のクラス名が年少で「もも」年長で「さくら」だったことは、
余計私にそう感じさせたように思う。
もも組の一年を早生まれの私は皆についていくことに必死で過ごしたが、
春に引っ越して編入したさくら組では少し余裕ができていた。
人生というのは「嫌」という意志を少しは出してもいいものなんだと知り、
途中一ヶ月以上登園拒否をしたりしながらまた次の春がやって来た。
そのとき「去年の春とは違う春だ」と感じたのを覚えている。
去年の春は生まれたばかりの弟が乳母車に乗ってどこへでもついてきて
わたしの手の行き場がどこにも無いという憤懣をこらえていたが、
この春はもう大丈夫だった。手を繋がないことの自由を覚えたからだ。

その園では、卒園間際になるとひとりひとりを園長が部屋に呼んで
お話をする決まりになっており、その日は私の番だった。
さくら組の教室から桜の大樹が見下ろす廊下を歩きながら
たしかに「あはれ」としか言いようのない感傷に包まれていたのを忘れない。
この園庭ともお別れだ、この桜が咲くころに私はここに居ない、、、。
それは初めて感じる心象だった。
そしてそのあともずっと、春には水が湧き出すように私を浸すことになった。
以来私にとって桜色は何にも比べることが出来ない、特別な色である。
誰に似合わないと言われたとしても。