くらしのことなら、戸倉先生は、もうずいぶんためこんだものねえ。たとえ先生が亡くなっても、あと奥さんとあなたがくらしてゆくのに、なんの不足もないわ。……だいたいあの先生の評論に、このごろ庶民庶民ということばがずいぶん多くなったわねえ。作家や評論家のかくものなかに、庶民とか大衆とかいう言葉がいやにふえてきたら、きっとそのくらしが庶民とかけはなれて豪勢なものになってきた証拠だとみていいようだわね (山田風太郎『殺人喜劇MW』より)