カースルは驚きの目で、いとも自然に状況に順応するミュラーの言動を見守っていた。それはカメレオンが環境に合わせて体色を変化させるのに似ていた。おそらく、週末をレソトのカジノに遊ぶときも、このような順応性を発揮しているのだろう。カースルはそのことだけで、彼への反感が烈しくなった。食事のあいだも、ミュラーはそつのない会話をつづけた。おれはむしろ、ヴァン・ドンク大佐のほうに好感を持つ、とカースルは思った。ヴァン・ドンク大佐だったら、サラと顔を合わせた瞬間に、何もいわずにこの家をとび出していったであろう。偏見には理想と共通する何かがある。コーネリアス・ミュラーは偏見を持つことがなく、それだけにまた、理想がなかった。
(グレアム・グリーン『ヒューマン・ファクター』p.124)
勝手に引用のことを語る