野外フェスって、出演者も出番のとき以外はその辺をフラフラ歩いてたりしますよね。
邦楽アーティストの中には、知り合いの出店の小さなDJブースで皿回してたり、
果ては一般の客にビールやらTシャツやら打ってたりする人もいたりするし。
で。いちばん最初のエゾロックの時だったと思う。
爆音と狂乱の夜が明けて、日曜日の明け方、
そろそろテント畳んだりせねばと、俺がステージから離れたところをフラフラ歩いてたら、
なんか前の方を、興奮した様子で小走りに駆けていく数人の若者たちがいたわけよ。
その子らが走っていく先を見たらば、朝日に浮かんでたのは、
ひょろりと黒い、歩く電柱みたいなシルエット。
思わず俺も追いかけましたさ、ええ。
黒づくめの長身痩躯の男は、関係者以外立ち入り禁止のエリアまで歩いていって
(コンパス長いから早いんだ、これが)、
そこでくるりとこちらへ向きなおると、あからさまに酔っ払ってるのが分かる顔で、
両手を俺らに向けて差し出した。
……その時、俺、何て言ったかなあ。「握手して下さい」とかだったかなあ。
もうあんまり良くは覚えてないんだけど、ともかく俺が自分の手を差し出すと、
酔っ払いギタリストは、すばらしく指の長い右手で、俺の手を握ってくれた。
左手にも別のお客の子の手を握りながら、
アベフトシはふんにゃりと、なんだか妙に無邪気に見える顔で笑って、
そして何故だか、俺たちに向かって、か分からないけれどともかく、
「ありがとう」
って一言、言ってくれたんだ。
忘れないと思う。
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