還暦を迎える父にグランドセイコーを贈ろうと思う。
月並みだけど、これからは自分の時間を生きてくださいと伝えたいからだ。
そこそこ大きな組織でかなり上のほうの役職だった父は
決して収入が少ないわけではなかったんだろうけど、
ぼくが中学生の頃に買ったセイコーのクオーツをずっと嵌めてた。
車はずっと中古車で、たぶん死ぬまで中古車にしか乗るつもりがない。
少しオシャレな店に連れて行くと、喜ぶ母を尻目に、嬉しくないという態度を露骨に取る。
世間的な価値観にあまり合わせる気がなく、独自の美学を持って生き続けてる人だ。
しかも数年間の迷走の果てに、ようやく希望の職についたぼくに会うたびに
「お前の仕事ってのは浅いよな。まだそう思わないのか?」と得意気に言い続ける。
父は、活字を読むぼくを嫌った。なぜテレビを部屋に置かない!! 観ないのだ!!と叱られたこともある。
こんな父親でなければ、ぼくはもっと素直で大らかで自己肯定感のある大人になれたかもしれない。
父は、ぼくに対して、いつも父親ではなく、企業人、組織人としてしか接してくれなかった。
だから、根本的に企業や組織に馴染めないぼくと話してると、相手を全否定する言葉しかぶつけられないのだ。
朝までかかる仕事を会社でしてる時に、ぼくは時々それを思い出して、悔しさに震えることがある。
そんな時、ぼくは世界中を憎んでる。
でも「そんなことを言うのは、自分がずっと元気で、稼いで、
道を外れがちなあなたに何かしてあげたかったからでは?」
と妹から何かの時に言われて、ふと考え込んだ。
もういいのだ、そんなことは。
それよりも60で始める念願の仕事を成功させることに意識を集中してほしい。
ぼくは自分の幸せを目指して、自分で生きない限り、もう幸せになれないのだ。
そして、そういうぼくのために30数年もの間、働き続けて来たことに、
父よ、ぼくはあなたに感謝したいのだ。
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