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自分(id:happysweet55)のことを語る

香住の蟹味噌をふた瓶買って、一つ開けた。香住町が、
一体どこにある町なのかは、普通の人は知らないだろう。
兵庫県の北のほうの町で、たくさん松葉蟹が取れる町だ。
餘部鉄橋や鎧ある辺り。すごく若い頃、ぼくはその辺を
自転車で旅したことがある。夏の日本海は穏やかで、
冷たくて、黒々とした長い昆布が不気味に揺れていた。
海岸線の続く道はアップダウンが激しく、狭くて、
ずっと海の音がしていた。香住の町は、そんな中で、
ふっと現れた町の一つだった。「蟹」と書いた看板が
あり、濃厚な海の臭いがした。町には誰もいなかった。
ただ暑く、ぼくは道に迷いながら、ずっと海岸沿いの
道を走った。海というより山が多かった。ぼくはまだ
若く、向こう見ずで、暗く坂が多い山道を登っては、
下り、夜になると海の近くでテントを張って、朝が
来ると、また走った。すべてが美しく、すべてが明るく、
すべてが醜くて、すべてが暗い。それはぼくの心がそう
だったのか、兵庫県北部の海沿いの街がそうだったのか、
よく分からない。そうか、これがあの場所の時の蟹なのか、
と蟹味噌を口にした瞬間に、散々道に迷って旅していた
記憶の風景が蘇った。みたいなこと書くと、誰も香住町の
蟹味噌を食べたいなんて思わないだろう。この蟹味噌は、
ぼくだけのものなのだ。ぼくは蟹味噌が心底好きなのだ。