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おはようのことを語る

新しい部屋は、朝陽がとにかく綺麗です。
窓を開けると、視界を遮るものもなく、大きなイチョウの木と何処までも広がる緑の公園と冬の青い空が見えます。数えたら引っ越しは15回目だったので、物件探しはプロなのです。間取りも詳細な図面を描いていたので、広々として快適。パスタを茹でながら、ロッシーニの口笛を吹いていると、100%完璧な女の子がスプートニクの犬のごとく尻尾を振って訪ねて来そうです。
「衛星から離れていく地球を見ていたの。そうしたら急にすごく美味しそうなニンニクと鷹の爪を炒める匂いがして、気がついたらここにいたの」と彼女は尻尾を振って言う。
「スプートニクの犬?」と僕は訊く。
「知らないの?1957年に打ち上げられたソ連のスプートニク2号に乗せられたライカ犬よ。スウェーデンの映画にあったでしょう」と彼女は言う。
「『マイ・ライフ・アズ・ア・ドック』」と僕は言う。
「そうそれよ。それはともかくお腹がペコペコなの」と彼女は言う。
それは僕も同じだった。だがそこで僕は肝心なことに気づいた。この部屋にはまだパスタもガスレンジ台もないのだった。以前使っていたガスレンジは2センチ幅が大きくてキッチンに入らなかったのだ。
「やれやれ。じゃあまた私は宇宙船に戻るわ。一つ忠告していいかしら?」と彼女は言う。
「なんだろう?」と僕は言う。
「あなたは村上春樹さんの真似をして、こんなことを書いている場合じゃない。台所を整え、仕事の準備をするの。早く目を覚ます!」
やれやれ。そんなことは言われなくてもよく分かっているのだ。そして彼女は宇宙へまた帰るためにカプセルに乗り込み、空へ上昇していった。
彼女は宇宙へと帰る軌跡でこんな文字を空に残していった。
「WAKE UP」。
どうやら僕は早く目を覚ます必要があるみたいだった。