id:discordance
残業(トナカイ)のことを語る

[睡余]
茫洋とした覚醒のあと、二度寝を決め込もうとまぶたを閉じかけた時、俺は追っ手から逃げる男になっていて、ビルの屋上で助走をつけてヘリコプターに垂れ下がる縄梯子に飛び移るアクションの最中だった。後ろから迫ってくるのがゾンビだったらこれはワールド・ウォーZで俺はブラッド・ピットということになるが、ワールド・ウォーZではヘリコプターに縄梯子はなかったような気がするので俺はブラッド・ピットはないし、そもそもブラッド・ピットが屋上から飛び出すときはスタントを使うに違いない。そんなことより、後ろからやばい足音とか怒声が聞こえて来て、俺はどうしても前に飛ばなくてはならない。フェンスのない屋上、視線の先には縄梯子が揺れている。タイミングを間違えたらただの投身自殺だ。ヘリコプターの風切り音の下で、背後からの足音や怒声が聞こえるのか科学的な検証をしたいところだがそんな余裕はない。俺は右足を大股で差し出してスタートを切った。あらん限りの全力を振り絞って全速力で全力疾走した。学生時代のタイムと現在の体重を参考にすると、およそ50m10秒くらいのスピードである。でも速い、速いぞ、俺。大股で走りだして、踏み切りまでの歩数を数えていなかったのが心配になったが、たぶんなんとかなるはずよ、ほら足元を見てごらん、これがあなたの歩む道、ほら前を見てごらん、あれがヘリコプターの縄梯子。踏み切りまでの僅かな時間に、屋上から飛び出した後の事を想像する。想像の中で縄梯子に手を伸ばす、人差し指と中指の腹が縄梯子の踏み板に触れる、反射的に視線を下げると15階くらいの高さで空を切る自分の足先が視界に入る、ああ高い高い高い!高い!高い!!…

あ、無理無理、無理でーす、ってなって目が覚めました。背景CGでお願いします。