id:over300TB は
自転車の鍵のことを語る

突然、父親から「お前の乗っていた自転車の鍵がない」と電話があった。2002年の春のこと。
実家のガレージに置きっぱなしで、ずっと乗っていなかったマウンテンバイクの鍵が見当たらないという。
すっかりホコリをかぶっていて、タイヤの空気も抜けていて、もう乗るつもりもなくて放置していた自転車。
一応鍵は保管してあったんだけど、届けに行くのも面倒くさいので「無くした」って言って電話を切った。
なんで急に自転車なんか…なんて不思議に思っていたんだけれど、その電話の数日後に父は体調を崩して入院。
そのまま退院することなく、呆気無く旅立ってしまった。末期の食道がんだった。

ガレージの中には、自分のかつて愛用していたマウンテンバイクが、ピカピカに磨かれた状態で残されていた。
今にして思えば、父は、嬉々としてこれに乗っていた頃の、自分の生き生きとした姿を見たかったのかもしれない。
今までの人生の中で最大の後悔。
ちょっとの時間でよかったのに。
自転車をキレイに磨いてくれてありがとうと言って、乗ってみせてあげればよかったのに。