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くたびれ はてこのことを語る

祖父96歳をお風呂に入れてあげたいんだけどどうしたらいいだろう。

祖父はこれまでも自宅の風呂場はなぜか遠慮して使わず、通いのホームで週に二度入浴していた。でも先月圧迫骨折をして以来自宅療養を続けているのでそれから入浴していなかったらしい。毎日濡らしたタオルで体を拭いているのだそう。

祖父は10年来足のむくみに苦しめられており、特に去年脳梗塞をしてから左脚がうまく動かず、そちらの足は古い角質もたまりやすい。先週訪ねていったとき足の裏に貼った湿布を剥がすところを見ていたらねばねばがちっとも取れないので、バケツにお湯を張って片足ずつ洗ってあげた。祖父は汚れ仕事だと思うからか気の毒なほど遠慮するので「いまは女性向けの美容サービス業として足を洗ってマッサージをしてくれる店がファッションビルにある」という話をしたら少し抵抗がなくなったようだった。

「このお湯はどこから持って来たかね」と聞かれ、祖父が使っている洗面所でお湯が出ることを祖父が知らないことを知った。これまで水で洗っていたのか。こういうことになんだかとてもとても悲しくなる。お湯で体を洗って温まって欲しい。でも考えてみれば祖父は圧迫骨折をして以来、自分でバケツに水を入れて運ぶなんてことは難しい。自室でお茶を淹れるようにと電気ポットを用意されているけれど、ポットにお水を入れることだって難しい。先日祖父にお茶を淹れたら「お茶やらもう長いこと飲んでないねえ」と言っていて、泣きそうな気持ちになった。

祖父の食事が出来ると階下の台所から祖父の部屋にブザーが鳴るようになっている。祖父は一人で12段の階段を手すりにつかまりながら下りていき、一人で食事をする。祖父の耳が遠くなってから家族は大声で話しかけるのが面倒だからか、祖父がそこにいないかのように他のことをしている。それを見るのもとても辛い。わたしが一人で話しかけると勢い大声で話すことになるので、家族はわたしに責められているように感じるのか、雰囲気が悪くなる。それを察して祖父がそそくさと自室に引き上げるのを見るのも辛い。

祖父は脳梗塞以来人並みの高齢者らしくなったけれど、頭も気持ちもたいへんしっかりしている。でも家族はなぜか、祖父がもう周囲のことがよくわからない老人であるかのように話す。祖父の言うことを信頼するなということなのかなと思う。祖父は何も愚痴ったりしない。ただ自分でどうすることもできない、そのとき切実に困っていることを、ごくさりげなく遠慮がちに話すだけだ。

祖父の足を洗っていたら祖父は何でもないような風で「足の爪はヘルパーさんに頼めば切ってもらえるだろうか」と聞いてきた。祖父は週に二日ヘルパーを頼んでいるけれど、洗濯も自分でやるし、部屋も自分できちんと、驚くほどきちんときれいにしている。ヘルパーもやることがないらしい。爪も頼んで、入浴介助を頼めばいいと思うと話した。そしてその場で爪を切らせてもらった。

圧迫骨折したところに湿布を貼ろうかと尋ねたら真剣な顔で少し考えてから「よし、手の届くところに貼ってもらお」と答えた。湿布を剥がしてくれと家族に頼めないらしい。もちろん貼ることも頼めないからわたしが来たときだけ貼っているのだとわかった。泣きたくなる。誰か気を付けてよと思う。祖父は年金から月々10万円を家に入れている。10万円だよ、10万円。それが祖父の遠慮料金だと思うと本当に辛い。