「これはいったいなんじゃろう」と思ったダンナは手を伸ばし、もやに触ってみた。手はもやをすり抜けた。何もない。けれど、もやに入ったところだけ、手に鳥肌が立つ。手をワイパーのように左右に振ってみると、鳥肌がぞわぞわと肘の辺りまで広がった。あとからあとから浮かんでは消える顔を見ながら、だんなはもやの中でペンライトを振るように手を振り続けた。そして飽きた。
「鳥肌が立つだけでなんも起らんのうと思ってな。明日は早よう起きてかみさんを病院へ連れて行かないけんけぇ、はぁ、わしゃあ寝かせてもらいます、と思って、寝た
でよ」。
昔話に出てくる、脅かし甲斐のない人のようだと思った。
家族今日のダンナのことを語る
