「あ、もしもし、はてこ？ 俺だけど。いま沖縄にいるんだ。ダイビングしに来た」
「えー、いーなー」
「うん、医者もそろそろいいだろうって言うから。死ぬときは死ぬからって。ハハ」
「はてこも行きたいよ」
「もう帰るんだけどな。それで、いまCOACHにいるんだけど、おまえ欲しいモノある？」
ないお！
「バッグいろいろあるけど、どういうのがほしい？」
COACHのバッグ持って行くところがないお！ 正直これまでもらったブランドモノバッグは、義理で限界まで死蔵してきたけど、軒並みヤフオクで売ったお！
「・・・ちいさくて、軽いバッグがいいなあ」
「ちいさくて、軽いの？」
「うん、もう体力ないから」
仕舞って邪魔にならないのがいいお！
「おまえ、欲しいモノないの？」
ないお！ 何も買わずに土産話だけくれたらいいお！
「・・・長袖のTシャツとか欲しいけど、沖縄にはなさそうだね」寝間着にするお！
「Tシャツ・・・ここはMax MaraとかRalph Laurenとかしか入ってないからな」
そんな服屋にはまったく縁がないお！ また死蔵して売るしかないお！
「そうなの、残念。いまラフな格好してることが多いから、それでまいにち身に着けられるものがいいな。ジーンズとか」
だからもう何も買うな！
「ふーん。まあやっぱり一緒に来たときがいいな」
そうそう。
「じゃあな」「はーい」
　
５分後。
　
「あのな、デニムのパンツととっくりのセーターを見つけたんだけど」
いらないっつってんだろ！ 家が狭いんだよ！ 手紙か商品券よこせよ！
と、はてこが言えない唯一のひと、それが父です。おはようございます。