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florentine(磯崎愛)のことを語る

まさか、こんなことでこれを披露することになるとはおもわなかったのですがw
とりあえず、ここに置く
卒論のカタログの一部です

『神曲』第一歌

INFERNO 01 The Dark Wood
Drawings of the Comedy by Sandro Botticelli
http://dante.ilt.columbia.edu/images/index.html 

 まず、画面左半分を覆う鬱蒼とした森が目に入る。その木々の間、画面左下方にうつむいて右方にむかって歩む男の姿を見つけることができる。
 彼は帽子をかぶり、長衣とゆったりとしたマントをはおっている。
 画面に繰り返し登場するこの男、つまり語り手であり主人公のダンテは、この『神曲』素描の中で地獄篇だけでなく、終始一貫してこの姿で描かれる。 一番左端のダンテのその手は前でしっかりと組みあわさって下ろされている。
 テキストを見ると、

  人生の道の半ばで
   正道を踏みはずした私が
   目をさました時は暗い森の中にいた。(1~3行)

  森の中で私の心は恐れおののいていたが、(13行)

とあり、その詩文を表しているものと思われる。
 続いて、画面ほぼ中央下方に、再びダンテの姿がある。すでに彼の背景は森が途絶えかけ、かわって斜めを描く岩場が見え始める。彼の足元には、彼に向かい合う豹の姿。
 この情景は、

  すると、山の斜面にさしかかるやいなや、そこに
   警戒で敏捷な豹が一頭あらわれた、
   皮に斑目のある豹だった。
  面と向かいあったが立ち去りもせず、
   逆に行手をさえぎろうとするから、(31~35)

の場面に相当するだろう。
 次に、斜面を少しのぼった位置にダンテがあらわれ、彼は獅子と対峙している。この場面は44行から45行目と一致しする。         
 続いて、右方へあがる山の斜面、画面最上方にダンテが顔だけ右斜めに向けて身体は左下方に進めた体勢で、両手をあげた姿で描かれる。その足下には、またしても一匹の狼の姿がある。
 そして、ダンテの左下、岩山に足が隠れた髭を生やした老人の姿がある。彼は帽子をかぶり、右斜めを目で睨む。

  しかも続いて牡狼が現われた、(49)

   獣は私をさして一歩一歩と迫ってくる、
   私はじりじりと退いた、太陽の黙する方向へと退いた(59~60)
  私が谷底の方へ逃げる途中、
   目の前に一人の人が現われた(61~62)

と、詩文にある。
 素描では、ダンテはヴェルギリウスの方を向いていない。しかしながら、ヴェルギリウスはダンテの方を見つめ、ダンテはヴェルギリウスの方向へと足を進めている。これによって二人の出会いは暗示されるのだ。

INFERNO 13 The Violent against Themselves

(お手許にある『素描ー触れ合わぬ手―』中表紙をご覧ください

 第13歌

 まず、画面の一番左上に、ケンタウロスの後ろ姿が見える。血の川は、画面の上のほうに描かれているのだ。奇怪な森の中に、ダンテとヴェルギリウスの姿をそれぞれ3回ずつ見つけることができる。
 その樹木は、柊のような葉をもち、複雑に入り組んでいる。その中には、彼らだけでなく、犬、女の頭をした羽をもつ怪物と亡者たちの姿が描かれている。
 
  ネッソスがまだ瀬を渉りきらぬうちに、
   私たちはもう小径ひとつも通じていない
   森の中にはいった。
  緑の葉はなく、黒ずんだ葉が繁り、
   すこやかにのびた枝はなく、節くれてひね曲がり、
   果実はみのらず、毒をふくんだ棘が生えていた。(中略)
  この場所には醜悪な鳥身女面の鳥が巣くっている、(中略)
  翼は幅広く、人頭人面、
   脚には爪が鋭く、太い腹は羽毛でおおわれ、
   奇怪な樹の上にとまって嘆声を発する。(1~15)

 ボッティチェリは、こうした森の様子を彼独特の美しい線描で表現している。
 また、このカントにおいてボッティチェリは『声』という目に見えない事物を視覚化している。画面の左、ダンテが幹に手をやり少し腰をかがめた横向きの姿で描かれ、その横でヴェルギリウスがダンテの顔を覗きこむような場所で表現されている。
 このカントは、自殺者の森といって、自殺者はひね曲がった樹木となってその魂を木の中に封じ込められているのだが、テキストでは、

  いたる所から痛ましい嘆きの声が聞えてきたが、
   声の主は誰ひとり見えなかった、(中略)
  そうした声は枝の茂みに隠れた者が
   発していると私が思った(後略)(21~26)

  そこで私は手を差し伸べて
   棘のある大樹の一枝を折った、
   するとその幹が喚いた、「なぜ私を折る?」((31~33)

 ダンテを注意してみると、彼の指の先に男の横顔が樹木から生え出しているように見える。これは、言葉を喋る魂の『声』の表現であると思われる。 次に、画面の中央に目を移すと、亡者が二人、腕を振り上げている姿がある。これは、

  と、転がるように左手から二人の亡者が逃げてくる(115)

という詩句の表現であろう。
 そのすぐ後ろを見ると、いぬが口を開けているが、これは、

  二人の背後の森からは
   鎖から放たれたばかりの猟犬のように
   血に飢えた黒い牡犬が群れをなして駆けてくる。(124~126)
までを表し、立っている亡者より少し視線を左に寄せると見付かるしゃがんだ男と犬は、

  蹲った男に噛みつくと(127)

を、表しているのだろう。
 その下に視線を移すと、立っているヴェルギリウスの手前でダンテが屈んで折れた小枝などを手にしているのが見える。

  灌木は血まみれの傷口から愚痴っぽい泣き声をたてた(後略)(132)
  その灌木のわきに立ち止まって先生がいった。(後略)(136)

  そこで彼が答えた、「(中略)
  この悲惨な木の根もとに枝や葉を掻き集めてくれ。(139~142)
 なるほど、ヴェルギリウスは木の横に立ち、蹲る亡者の頭の上に、皺の寄った男の横顔が木から生え出ている。その木の下に、ダンテは枝を集めているのだ。
 しかし、ダンテが実際にこの哀れな木のために枝を集めるのは次の第14歌の冒頭の詩句にあるのだ。

  生まれ故郷を懐かしむ情に胸がつまり、
   私はあたりに散らかっていた葉を掻き寄せて、
   もはや声もかすれた彼の足下にそっと返した。(第14歌 1~3)

 残念なことに、第14歌の挿絵も紛失しているため、ここでも繋がりについては語れないが、この挿絵で、すでに下辺に次の火の雪の降る砂漠の様子が垣間見れる。ボッティチェリが、挿絵を一歌ずつに限りながら、彼の視点がその先まで見越しながら進む様子が理解できるものと思われる。