id:usaurara は
うさのことを語る


--- 月 (Ⅰ)---


「欲しい」と言うのは苦手だ。
長年欲望を直視することを避けて生きてきたせいなのか
僕はいつも崖の手前30センチまで僕のことがわからない。
それでも、見えるようになったこともある。
きみが決して誰も立ち入らさない静かで大きな悔恨の海。
初めてスクーターに乗ったとき、きみの背にその波音を聴いた。
以来スクーターの振動ときみの心音の隙間からこぼれる海鳴りに
僕の海を同調させるのは、僕にとってずっと幸せなことだった。


ブルームーンの夜、きみの背中に「欲しいと言うのは苦手だ」と呟いたのは、
距離が近づくにつれきみの扉が僅かずつ閉じてゆく気がしてきたからだ。
このままじゃきみが、カタツムリのような触れられない何かになってしまいそうだった。
恋愛の手順など僕は知らない。どころか、恋愛なのかどうかもわからない。
わかっていたのは、もう背中じゃ駄目なことだけだ。


暫くの無言のあとで振り向いたきみは、静かな貌をしていた。
それがあまりにも予想通りで、僕は「どうして」と
いったい質問なのか慟哭なのか自分でもわからない言葉を投げてから、
すぐさまきみの唇を塞いだ。
用意された答えがこの世に出てしまうのが怖かったんだよ。

それまでも、僕たちは何度かふざけてキスをしていた。
だから初めてではなかったのに、それはまるで初めてのキスだった。