【勝手に引用】
神取は、自分が座っている畳を指して言う。
自分がいる場所に納得がいかないの。どうしても、納得いかなかったの。
「だからさ、私ってのは、それまで国内は別にしてよ、世界では、ずっと二位、三位が圧倒的に多かったわけじゃん。
だけどさ、私は、柔道は、一位じゃないと、買った気がしないってとこがあんの。
なぜって? だってよぅ、柔道ってのは格闘技じゃん。格闘技ってのは基本的に生き残りゲームじゃん。ねえ、そうじゃん。一対一で戦う絵ゲームってのは、やっぱ、結局は殺し合いゲームなんじゃないの? どんなふうに言ってみてもよ。目の前の相手を、とりあえず殺して、次の相手にむかっていって、最後に、一人だけ生き残るんじゃないの? ちがう?
だとすりゃ、柔道で二位、三位ってのは、一番最後と、最後から二番目に死ぬ奴っていう意味しか持たないわけでしょ。ただ、殺される順番が遅いってだけでしょ」
彼女は、人さし指を突き出した。
「一位だよ。つまり、一位なんだよ。二位や三位じゃ駄目なんだ。
私は、一位じゃないと意味がないって思ったんだよ。
それでよぅ、どうやったら一位になる可能性が出てくるかってことも、なんとなくわかったんだよ。やっぱ、私に欠けてんのはよう、生き残り勝負への最終的な執念ってやつじゃん。なんか、もう、周囲のものも見えなくなっちまってよぅ、勝ち負けに人生を賭けるってやつ? そんなもんが、私には欠けてたわけだと思うよ。やっぱ、勝ち負けには人生賭けてなかったから。だから、試合に向けての調整にしても、自分をぎりぎりまで追いこんだあとはよぅ、温泉でぼうっとしていたかったわけじゃん。それまで放棄しちまって、人格壊してまで勝とうと思わなかったわけじゃん。
だからさ、私は、二流の選手なんですよ。結局、柔道の勝負より、自分自身を壊さないほうを選ぶわけだからさ、一流じゃないわね。
私、二流なんだよ。そう、感じたよ。
だからね、一方で一位にならなくちゃ意味ねえよなって思うし、でも、もう一方で一位になるために何をすればいいのかわかっていても、それをしなかったし。自分で自分に納得がいかなくなっちゃったってのは、結局、そういうことなんじゃん」
勝つために何か捨ててれば、人生も勝負もかわったでしょう。きっと。
わりあい冷静な声で、彼女はこう言う。
「たださ、人生だけじゃなくて、目つきまで変わってたと思うよ。
試合やるときに、目つきがかわるのは構わないと思うんだけどよぅ、それを、そのあとの人生にまで引きずりこむってのは、嫌だったんだよ。私は……二流でもいいから、自分の人生を壊したくないと思ったんだよ。でも、同時に、二流でいいと思ってる自分に納得いかなかったんだよ。
だからさ、福岡国際に出るだけ出たらやめようかって考えてた」(pp.151-153,『プロレス少女伝説』)
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