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花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
- --------- 浪 ---------------
わたしが枝垂れる花、それも樹に咲く花が好きなのは
どこかしら狂気じみているせいだろうと思う。
桜しかり藤しかり、夏であれば百日紅(さるすべり)。
ではブーゲンビリアはどうかというとこれは違う。
インチキくさい色のせいじゃない。
しっかりと大地をかかえこむ根とそれゆえの不自由を持たぬ花に
狂気の匂いなどあるはずもない。
大阪の新興住宅地にはキョウチクトウばかりが憎らしいほど並んでいて
古い庭木が塀のむこうから覗くのを愛でる楽しみなどなかったが
神戸に来てさるすべりの紅い花をよくみるようになった。
一年でもっとも暑い百日に
なにかを吐き出すように咲くさるすべりの
花の終わりにわたしの鎮魂歌も遠ざかる。
その花の縮れた線が密集するさまに
砂浜を駆け上がる無数の浪を想う夏が
ようやく終わるのだ。
花うさぎのことを語る
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花うさぎのことを語る
こたえるように
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百日紅(さるすべり)がいろを濃くするたび
自動ドアのガラスがはじけ光に刺されるたび
その風のなかに
その光のなかに
あの熱をおもう
また盆がやってくる
花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
みやげものの
貝殻らせん
なかをあるいてみたくて
ながいこと目をこらしてた
鍵のないたから箱を
与えられたような理不尽
花うさぎのことを語る
朝日とともにおびただしい人を吸い込み
日暮れとともにちいさく吐きつづけて
城は シンデレラの時間に
ようやく闇に堕ちる
そんな満ち曳きのくりかえしのなかで聴こえていたのは
鳴り止まぬビル風だけだったのか
貝殻に耳をあてたら聴こえる あのおと
はじきだされた異物がたどりつくのは いつも水辺だ
あなたは海抜ゼロに立ち
すべてを またはじめられる気がしただろうか
海よ
海底の貝殻よ
おまえが聴いたあのひとの
おとのかたちをおしえてくれないか
花うさぎのことを語る
赤い珊瑚の塊は
心臓に似ていた
心臓が繰り出すおとを
聴き続けたあの夜
もう その諧調も思い出せないけれど
花うさぎのことを語る
ほのかに光るのを
見覚えのあるそれ
かつて
愛しんだそれを
もういちど
花うさぎのことを語る
夜の海に立つと
不安と安堵が交互に
寄せては返す
その危ういバランスを
サーフしながら
花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
- ------------- 金魚 ---------------
夏休みに入るかという日差しの下で、4年生の私は絵筆を握っていた。
膝の上の画板に四角い紙があり、そのなかにはさらに四角い緑がある。
ところどころにぼんやりと赤い斑点がなければ、羊羹にでもみえそうだ。
そして、わたしは。
わたしの前にあるものがコンクリ製の人工池であると、
今、この様子を知る人間にしかこの四角の意味がわからないだろう――
ということに、打ちひしがれていた。
どれだけ緑のグラデーションに気を配ろうが、
金魚の姿の「みえなさ」を如実に写し取ろうが、抹茶羊羹から一歩も出ないのだ。
さん…[全文を見る]
花うさぎのことを語る
あれは明るい夜だった
明かりをおとしても
まぶたを閉じても
何度も何度も
潮の音を聴いて
何度も何度も
花うさぎのことを語る
抗うための声もなく
逃げるための足もない
夜店のヒヨコよりはかないいきもの。
花うさぎのことを語る
なまぬるい風にのって
遠くからくる祭りのおと
木木が
草草が
ひとびとが
やわらかな息を吐く時間
たいせつなことほど
気づきにくく
たいせつなことほど
言葉にできない
あなたが悔いているように
あのひとも悔いているだろうか
きんいろのさかなが居るあの場所で
花うさぎのことを語る
花うさぎのことを語る
目をあけたまま
夢をみるのも
腰を振らなきゃ
生きてけないのも
なるでおなじじゃないかと
指が疼く
/花うさぎ






























