/短歌

ぬる燗やおにぎりにした悲しみの白さばかりが眼に滲み

偽りと知りても美味（うま）し松茸よまったきことの世になかりせば

汐かぶる銀の刀（かたな）のきっ先に指を喰はれてみる女かな

瘡蓋を剥がさむ風や何処へかコスモスの波白くたゆたふ

海臨む三角屋根に光見て三歩ののちに雷（いかづち）聞きぬ

段々のドングリ踏んで蹴上がって拍手がわりに狛犬ハグして

時を待つあの里山のもみじ葉のいろが早いか君が早いか

虚を突かれ闇に見入れば木犀のちいさき星や砕け散るかな

月走り雲追うさまを傾げ見るでんしんばしらは繋がれて居り

捨てあぐね電信柱の指す空に片手の星と明日を拾いぬ

田に稲を思いつつ来る東風（こちかぜ）にさかしま望み細笛を聴く

肩車されて拾いし飴色の殻は夏のわすれものきみの笑顔が思い出せない

蓋開けば白きけぶりのたなびきて鍋に芋の月や光りぬ

流行の色をも知らず暮らせども秋は素足に忍び寄りけり

閉じた窓越してささやく雨音に活字虚しき十四夜かな

ホチキスを刺して番（つが）ふる痛みさえとうに忘れて小春日和

式部の実つゆを被れるきらめきは石よりもなお海よりもなお

諦めをひとつひとつに踏みしめる中之島は秋めいてをり

闇に張る湾岸橋の細糸を弾けば音符はきみまで飛ぶやも

ゆくひとの風の速さに身をすくむ街路樹もほら秋を見ている