ようやく見た『エヴェレスト 神々の山嶺』。『エベレスト 3D』が客観的な映画なら、こちらは主観的な映画。怖いのは山ではなく、山に執着する山ヤの業なのがよくわかるホラー映画であり、絵面的・熱さ的に登山BLでもあり。体質的に高所登山ができなくなったことにこれだけホッとする映画もない。
あと、映画的演出なのか、その標高でそれはないよね、とか台詞多すぎ、とか、合成が相変わらず日本映画っぽくしょぼい、などあって、なんというか、原作とマンガとは別物でした。ただ、深町がファーストシーンから羽生に相通じる人非人さを持っている人物として原作から改変されたのは、山ヤは頭がおかしいってことを知らしめるのには有効だと思います(褒めてます)。
『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』、せつなかった。脳の老化と闘う93歳のホームズを、70代後半のイアン・マッケランが演じる。
真田広之演じる梅崎が、ホームズを日本に呼び寄せた魂胆が明らかになるにつれ、広島の爆心地に連れて行き、そこに生えている山椒を持ち帰らせた意味を考えてしまう。
しかし、もし梅崎が原子爆弾の被爆後遺症を知っていたとして、93歳に果たしてその復讐は有効かどうか。
それよりもやはり切ないのは、往時のホームズならすぐに気付いただろう、アナフィラキシー・ショックの原因追究にあれだけの時間がかかったこと。梅崎に書いた手紙は、様々な老化という現実からショックを受けたホームズの、嘘も方便、だったのだろうか。
http://gaga.ne.jp/holmes/
神保町シアターにて、『江戸川乱歩の隠獣』。キャストも贅沢なら脚本もカメラもよく、和服も山の上ホテルや横浜グランドホテルも眼福の、黒蜥蜴の習作のような一本。
探偵の推理作家役に若くて可愛い柴犬みたいなあおい輝彦。わたしの好みではないけれど、ああ、これはそうとうな人気だったろうなあと納得。
対する黒蜥蜴役はリカちゃん人形のモデルでもある香山美子。彼女の和服姿はいちいち素敵なんですが、半襟がずーっと同じものだったような? 富豪夫人ならそここそ替えると思うのだけど、短期間撮影で長襦袢を着っぱなしだったのかしら。
そしてあおい輝彦の担当編…[全文を見る]
『Maiko ふたたびの白鳥』での黒鳥のフェッテ、見てるこちらもハラハラした。それはあのシーンが『白鳥の湖』の文脈じゃなく、組織で仕事をする上での「このプロジェクト失敗したら降格ね」という彼女の人生の物語に沿っていたから。バレエに興味なくても、仕事をする人は思うところあるのでは。
『Maiko ふたたびの白鳥』@恵比寿ガーデンシネマ
初っ端から泣かされる。いやー、これはズルい始まり方! しかし、シビアなバレエの世界を語るしっかりした西野麻衣子=マイコの声と、レッスン中のきっちり上がってる胸筋や横隔膜のプロな身体、舞台袖で気合入れるためにマイコが自分の太腿をぱしーんぱしーんと叩くところは、バレエの体育会系なところを表していて上手いな! というところで、その涙もすぐ乾く、と思いきや……。
なんかもう、いろいろ心揺さぶられました。女として仕事を続けることで、仕事の場での誰が味方なのか敵なのかハラハラするところ、産休中の代…[全文を見る]
新装なってから初の恵比寿ガーデンシネマ(あ、売店でおしゃれイートインし忘れた)でクストリッツァの『ジプシーのとき』。ファンタジックな描写はほとんどなく、ロマとマフィアがかっこ良くなく容赦無く描かれる。
園子温がダメな人はたぶんダメだけど、園子温好きはきっと好きだろうと思われる映画。まあ、『アンダーグラウンド』がそもそもそういう映画だけれど。
この映画は園子温的な軽やかさやポップさはなくて、人間の業が「そこでそうしたら、きっと……」「あぁ、やっぱり……」という予想される逃れられなさをどんどん突き付けてくる。
果たして、自分が彼や彼女…[全文を見る]
原作が面白かったので見た映画『オデッセイ』、原作『火星の人』でのC国との取り引きが、がっつり削られて、まるですごくいいヒト(ヒトじゃないけど)になってた。
ただ、原作では描かれないその取り引きの結果がチラッと映画で拾われてたのには感心。でも原作読んでないと気づかないかも。
あと、某転覆事件もがっつり削られてたのは残念。でも子どものころ見た月面移動車的なものの進化した姿とか、仕事空間としての宇宙船内部なんかがたっぷり見られたからいいかな。
それと、中高年にはあの船長の音楽ファイルはツボすぎます!

『神なるオオカミ』
ジャン・ジャック・アノーが監督した中仏合作映画『神なるオオカミ』を見てきた。原作本のことを知らなかったのだが、調べたら原作の方が圧倒的におもしろそう。
というか、うっすら読んだ覚えが。しかし、現在は絶版の模様。上下巻のところ、Amazonでは上巻は古本があるが、下巻はなくてkindle版がある。
映画はオオカミが最初に襲いかかるところはぞっとするし、赤ちゃんオオカミや子どもオオカミ、草原の自然が美しかった。遊牧ゲルの嵐への備えや移動時の解体が見られること、モンゴルの草原での葬送儀礼が見られるのもうれしい。
ただ、飼育オ…[全文を見る]
『ストレイト・アウタ・コンプトン』
20年でそうそう差別の構造って変わらないんだな、と少しダウンした。
あと、ちょっと長いかな。面白いけど、長さを忘れるほどじゃない。あと予想より暴力表現控えめ。でも見てよかった1作。

職場近くの岩波ホールでずっとかかってたのに見逃し、ようやくアップリンクで見た。
http://www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/
『光のノスタルジア』
人を粗末に扱う、それも大量に、ということを人間が覚えたのはいつからだろう、と、チリの海中やアタカマ砂漠で発見されないでいる遺骨を思った。
第二次世界大戦中より、その後の世界の戦死(それがゲリラやテロの正規軍でないものも含め)や時の政権による虐殺の方が、人数が多いんじゃないだろうか。
戦争は様態を変えるごとに、そこで死ぬ人数が増えていくよね。古代ギリシャとローマの途中までは、戦争=自分たち…[全文を見る]
『ボクは坊さん。』
軽いタッチの映画かと思ったら、けっこう深く切り込んでくる映画で、ぐすぐす泣いてました。
最初の方では、「なんでこんなふつうのことを凡庸に見せるんだ」と、各エピソードについて思っていたんですが、その凡庸さと当たり前に起こる生老病死・愛別離苦に寄り添うのがお坊さんの役目、というところに落とし込むための演出だったのかも?
言うなれば、泥の付いた蓮根を「産直ですよ〜」と並べていて、泥の付け方がちょっとあざといなあ、と思っていると、その蓮根の先に蓮の花の蕾がつながっていることを知らされる、そんな感じ。
ラストシーンは宗教の垣根を越えて、祈りの力を信じたくなる描写でした。
『エベレスト 3D』
久々に3Dメガネかけての映画鑑賞。登山映画の恐怖は3Dでも角度とかセオリーはあんまり変わりませんね。そして登山のミスは高くても低くても
・時間厳守
・装備はきちんと使う
を怠ることに尽きるなと。わたし自身はいちばん高く登ったのが赤岳の途中までだけど、けっこうあるあるで、そういう意味で恐怖は想定内だったけど、怖かったのはヘリの離発着シーン! あれは怖いなー!
そして何も調べずに行ったので、難波康子さんが亡くなった隊の話でハッとした。映画だとわかりにくいけど、キャンプから当時、300メートルしか離れてないところで遺体が見つかったんですよね。無念だったろうなあ。
『ハーモニー』
対話によってではなく、完全な管理でしか平和を保てないなら、万物の霊長などと言う資格はもはやない。これは原作を読んだときにも思ったこと。
そして、humanを人間と訳した明治の人、ありがとう。
そう、人間性はホモサピエンスのヒト単体には発生しにくい。ヒトとヒトが出会ってやっていこうとする、その間に人間性は生じる。
だから、対話、話し合いを放棄するのは人間性の放棄に繋がるんですよ。
そんなことを、パリのテロとフランス空軍の空爆のあとに見た映画で思った。
『屍者の帝国』
入場者プレゼントです、ともらったのだが、まさかキャラデザイン表でいちばん違和感のあったこの人をこのイラストレーターが描くとは。違和感は、あの時代に服を着ているにもかかわらずのあのお胸のラインなのですが。
それはともかく、映画版『屍者の帝国』は愉しかったです。大塚明夫さんの声を聞いたせいか、屍者たちが『イノセンス』のタイプハダリたちの起動シーンを思い出させるせいか、たびたびバトーさんの「魂を吹き込まれた人形がどうなるかは考えなかったのか!」を思い出してしまったり。

『キングスマン』
おっさんのスーツと眼鏡姿でのスパイアクション、エロくて最高! 世界を平和にしたい動機が自分の家族っていう地に足着いたリアルが身に沁みる。音楽の使い方がベタすぎてむしろ何かを超越してたな。
そして予告編で、007を別の例のSF視点から見てしまう自分に気付く。早くワトソンから現代JBまでの屍体スパイものの年代記が書き継がれないかしら。
あと、予告編でみたガイ・リッチーのアメリカとロシアのスパイが冷戦時代にバディ組む映画は絶対見たい。またしてもBLネタに事欠かない雰囲気!
ところで、主人公が「後ろで」にキラーンとなるのはモーリス的なBLへの目配せっていうのは深読みしすぎですかね?
『バレエボーイズ』 http://www.uplink.co.jp/balletboys/
変に感傷的だったり甘ったるかったりしないのがいいドキュメンタリー。
いちばん家庭を離れがたい子が海外からの青田買いにあったり、いっ
たんバレエを諦めた子のバス停でのエピソードが泣けたりはするけど、
とにかく中盤までの展開が速い。中盤以降は同じようにはいかなくなっ
ていくバレエボーイズたちの視点の変化がシビア。でもこれこそがアー
ティストに成る人と目指す人の差の現実だろうなと思う。
それにしても、この年代の子どもたちの成長の速さと言ったら! あっ
という間に背が伸びて声変わりして少年から青年の顔になっていく。
「時分の花」を目の当たりにする思い。
わかりやすい>マッドマックス 怒
旧作の上映時は原とか2とか砂とか付ければ解決!

『TNG パトレイバー 首都決戦』
映画の日なので『パトレイバー 首都決戦』2回目。やっぱり岡部いさく氏を見つけられな
かった……。10月に上映されるというディレクターズカット版かソフト化されたもので確認
するしかないのか?
そしてやっぱりカーシャかっこいい! イノセンスの少佐っぽくもあるし。でもシリーズが
進むにつれ、どんどんセリフがロシア語だけになっていくのは、なぜなの? 首都決戦
じゃあ、一度も日本語喋ってないような。特車2課で完全に地を出してるっていう演出な
のだろうか。
『ダライ・ラマ14世』
自分は忘却の生物だなあとつくづく思う。法王さまのおっしゃる仏典からの言葉を、何度も
目にし、耳にしているのに、日々の生活を過ごすうちに忘れていることの多いこと!
わたしがチベット仏教に惹かれる契機となった言葉、「因果応報でマイナスのカルマを負っ
たとしても、(できることがあるならすればいいし、)できることがないなら、それ以上そのこ
とについて悲しまないように」と再び出会えたのはありがたかった。
もう一つ、「勉強して自分の能力で社会に貢献する」という部分だけは、言葉自体は忘れて
も、自分が自分であるために実践でき…[全文を見る]
『TNG パトレイバー 首都決戦』
パトレイバー、予想よりよかったな。押井監督、ほんとにヘルシーになったなあと思った。
下敷きになってるあの映画は、世の中に倦んでる倦怠感にまとわりつかれてるのを振り
払う感じがただよってたけど、今回は、同じように見える状況でも印象がぜんぜん違う。
荒川にあたる人物はあんなに不健康ではないし、っていうか健康そのものだし、そのお
かげでラストのさわやかなこと!
ほかのキャラクターも、以前と同じ状況に落とし込まれても、以前と同じ轍は踏まない
覚悟がそれぞれにあふれてる。後藤田さんは「おれも先代と同じか」と自…[全文を見る]