大学卒業後にニュースキャスターの職に就き、言語コミュニケーションの重要性を実感したことで、国語科教員として学習者の言葉の育成に携わりたいと考えるようになった。ニュースキャスターを辞し、大学院で学んだ後、中学校や高等学校に勤務するようになり、問題があることに気づいた。授業で発言するのは限られた一部の学習者であり、多くの学習者は自ら発言することを望まない。また、発言する学習者も、自分の考えを主張しようとする意思が強く、他者の発言は自分とは関係のないもののように扱う傾向があった。二○一八年に短期大学の教員となり、さらに問題が顕在化した。自分の考えを発言しようとする学習者は依然として少なく、むしろ皆無と言って良いほどだった。そればかりか、自らの考えを形成することも困難な状況であった。かろうじて何人かの学習者の考えを引き出すことができたが、自分の考えに自信を持つことができず、その考えを聞いている学習者も他者の考えに学ぼうとする姿勢が見られなかった。
学習者の誰一人取りこぼすことなく、皆が考えることを楽しみ、他者と打ち解けて、ともに高め合うことができる授業を作りたいと切実に願った。そのとき、一つの方法として、教材そのものを転換することを着想した。ストーリーマンガ(物語性のあるマンガ、本書で「マンガ」はストーリーマンガのことを指す)を教材とすれば、正解にたどりつくことができないと思い込み、考えることそのものをあきらめたり、自分の考えが正解ではないかもしれないという不安に駆られて発言できなかったりした学習者の意識を変えられると期待した。そして、学校教育の最終段階となる高等教育の学びの中で、他者との解釈の交流を通して、自分の言葉を見つめなおし、新しく自分の言葉を紡ぎ出すことができる授業を実現することができると考えた。
(中略)
本書では、短期大学でマンガをいかに教材化できるか、またその実践を通して学習者の「読み」がどのように成立していくか考察し、中学校・高等学校の国語科教育への逆照射を試みる。高等学校までに培われるべき能力が身につかず、自信喪失に陥っている学習者に対して、リメディアル教育の側面から新しい提言を行いたい。なお、本書は早稲田大学から学位授与をされた博士論文を改稿したものである。中学校、高等学校、大学の教員が明日にでもマンガの授業ができるように、指導過程や学習者の解釈を詳細に記載した。
まえがき
第1章 文学作品を授業で扱う際の課題
第2章 ストーリーマンガを授業で扱う意義
第3章 マンガの非言語表現を話題にした読みの交流の実践
第4章 マンガの文法から作品のメッセージ性へと昇華する読みの交流
第5章 マンガは読みの磨き合いにどう寄与するかー学習者の自己内対話を可視化するー
第6章 評論を介在させることでマンガの解釈はどう変容するか
おわりに
特別支援教育が始まってから15年が経過したという一区切りの時期に、本書では特別支援教育はどこまで到達し、何が課題として残っているのか、また特別支援教育が社会に浸透していく中で、新たに生まれた課題は何か? そして、そもそも特別支援教育はどこに向かおうとしているのか?を、第1章(到達点)、第2章(課題)に続いて、第3章(可能性)として、各学術学会の代表者、保護者、教育関係者、教育行政関係者それぞれの立場から先生方に提案していただく。
「植民地教育史」をテーマとする学会「日本植民地教育史研究会」の年報第27号。今号の特集は「「満洲・満洲国」教育史研究の固有性と独自性」とし、竹中憲一、槻木瑞生、原正敏の仕事から検証を行う。
巻頭言
戦前・戦中の日本語学・日本語教育の負の遺産 前田 均 5
I.特集 「満洲・満洲国」教育史研究の固有性と独自性を考える
シンポジウム発題:「満洲・満洲国」教育史研究の固有性と独自性を考える
佐藤広美 10
竹中憲一の仕事─「満洲」教育史の基礎的研究─ 宇賀神一 13
槻木瑞生の仕事─民衆の「心のひだ」に分け入る満洲教育史─
山本 一生 26
原正敏の仕事─職業技術教育史研究はなぜ満洲に関心を寄せたのか─
丸山剛史 46
2.研究論文
1920年代における台湾公学校児童の学習状況─学籍簿を史料として─
合津美穂 52
日本占領下の天津特別市における青少年向け音楽イベントの実態 楊慧 76
3.研究ノート
朝鮮総督府編纂『簡易学校国語読本』について ─『普通学校国語読本』との比較を通して─ 野村淳一 100
4. 書評
蘭信三ほか編『帝国のはざまを生きる─交錯する国境、人の移動、アイデンティティ』
冨田 哲 114
菊地俊介著『日本占領地区に生きた中国青年たち─日中戦争期華北「新民会」の青年動員』 楊慧 120
王楽著『満洲国における宣撫活動のメディア史─満鉄・関東軍による
農村部多民族支配のための文化的工作』 Flick, Ulrich 126
鄭大均著『隣国の発見─日韓併合期に日本人は何を見たか』 井上 薫 133
劉建輝・石川肇編『戦時下の大衆文化─統制・拡張・東アジア』
松岡昌和 140
5.図書紹介
姫岡とし子著『ジェンダー史10講』 大石 茜 148
6.資料紹介
2024年中国大陸における資料調査記─広西チワン族自治区南寧市を例に─
光多隆之介 154
戦時期南方諸地域における日本語教育の一断面─『大阪毎日新聞』(1942年8月)の記事から─(1) 田中 寛 162
7.旅の記録
2024年春休み、広西大学日本語学科、南寧市訪問記 光多隆之介 170
台湾における旧公学校文書保存の現状と課題─竹東小学校と西屯小学校を訪れて─ 陳虹彣 177
彙報 (宇賀神一事務局長) 185
編集後記 189
著者紹介 191
『植民地教育史研究年報』投稿要領 193
CONTENTS 194
漫然とした福祉国家から費用対効果が尊重される時代に転換した世界の教育政策は、教育の成果を測定することから始まった。2000年に始まったOECDのPISA調査による学力ランキングは、各国の教育政策に強い影響を与えている。本書は、ドイツでは州毎に多様な教育政策が展開されていること、学力の低い移民の児童生徒を中心に学力向上策を実現したこと、教育機会を妨げる分岐型学校制度を改革した点を日本の教育政策との相違として分析する。一方、学校外部評価と教員養成改革で学校教育の質保証を目指す政策は、日本の教育政策との共通性を浮き上がらせている。比較教育学の神髄を鮮明に見せてくれる現代ドイツ教育論である。
子どもの発達段階に応じて心を育てる。共同作業での自己理解・ストレス対処・将来の夢など、人の間で自分を伸ばす。
本書で育てる『社会性』とは子どもたちが大人になり社会生活を営んでいくために必要な、コミュニケーション能力・実践力・社会適応・集団適応・規範意識等、特に「将来展望性」に焦点を当てた諸能力や資質の総体。
マサチューセッツ州初代教育長マンが、州の教育費削減案に抗し、教育の価値を金銭に換算して見せた時、新たな功利主義的教育観が誕生した。教育による労働者の資質・収入の向上、それに伴う一国の富の増進と階級闘争解消の効果等、教育の経済的生産性を公共性向上の裏づけに置くマンの教育観は、その後の米国教育思想のみならず、アメリカン・ドリームの原点とも言えよう。教育の公共性が問われる今、その思想の全貌と今日的意義を一次資料を通じ分析・考察した労作。
個人の道徳性と社会的正義を結んで考える。
性をめぐって生きづらさのある子どもに対して、国語科教育ですべきことはなにかー。本書は、学校という場で性の多様性がどのように扱われているのか、どのような課題があるのか、人権教育や他教科での取り組みも取り上げるとともに、理解しておくべき用語や概念についても言及しました。そして、具体的な教科書教材に基づいて、どのような教材をどのようにとらえ、解釈することが可能なのか、「教材の見方・考え方」の一例を提示しています。
「教育の目的は子ども自身の幸福」--牧口常三郎の教育理念を根底に、現代社会で「人間教育」をどう実現するか。6人の研究者が教育をテーマに多角的に論じる。
日本の高校生はどのような法知識・法意見・法意識を有しているのか。2000人調査の結果を分析し黙秘権・自白強要の禁止についても言及。
教師の役割や責任が変わりつつある今、教師教育も変わらなければならない。教師教育を変革するための最善の方法は何か。また、教師教育の成功をどのように評価するのか。本書では、教員養成と現職研修を見直すために有益な研究や調査を紹介した。OECD諸国の教師が直面している課題に着目するとともに、それぞれの社会的背景のもとで行われている具体的政策や実践とその意義を示した。
国外・国内の情勢が目まぐるしく変動する今日、特に社会科教員は、常に社会と教育の全体像を俯瞰しながら、その時々の情勢に応じた「資質」や「専門性」が求められている。そういった教員を養成するために、教師教育に今必要とされるものは何かー?4部構成全18章の充実の章立てからなる、「よりよい教育」を志向した不断の研究・議論・実践の結晶の一冊!
ノルウェーの幼児教育におけるジェンダー平等、公平性、多様性の尊重に向けた理論と実践をテーマにした意欲的な研究書。豊富な現地調査をもとに、同国の保育政策、カリキュラム、保育者、保護者および子どもの公平性の観点から多角的に分析していく。
高等教育機関における質保証の考え方、取り組み方を、教育・研究上の倫理(学術的誠実性 academic integrity)の視点から解説。示唆に富む著名な元学長へのインタビュー3本も収録。
TED史上最高の5600万再生!ノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイ絶賛!
世界中が注目する教育・能力開発の第一人者による
「創造性を育てる教育の未来像」とは?
○「学校教育は創造性を殺す」。ならば、創造性を生み出す学校とは?
2006年、教育研究者ケン・ロビンソンはTEDトークで「学校教育は創造性を殺してしまっている」と題した講演を行った。その主張の中核は、「多くの生徒が非常に才能を持って生まれてくるのに、学校の中でそれが評価されず、むしろ抑圧さえされてしまうために、自分をダメだと思い込み、その才能を鈍らせてしまう」というものだった。この講演は大変な反響をよび、再生回数5600万、閲覧人数3億人超と、TED歴代でもっとも大きな影響が広がった。
「創造性を育み、子どもたちが能力を高める教育・学校はどのようなものなのか」? TEDトークで提起した問題に対して、ケン・ロビンソンは本書でその答えを述べている。それこそが、創造性を生み出す学校である。
○標準化をめざした「教育改革」の問題点
現在世界中で、「教育改革」が叫ばれ、実際に行われている。それは、生徒間の競争を励行し、学習基準や評価の数値化を推し進めることで、水準を上げようとするものだ。しかし、これは問題を解決するどころか、むしろ悪化させてしまう。数値化・標準化を指標として過度に推し進めることで、結果的に個性や想像力、創造性は抑圧されてしまうのが、今世界中で起こっている「教育改革」の停滞と失敗の姿である。
子どもたちは多くの才能と能力を持って生まれ、学校に通う。しかし、標準化・数値化の枠に当てはまらない才能は無視され、スポイルされてしまう。その結果、失われてしまう可能性は膨大になってしまう。
○世界最先端の教育から学ぶ、未来の教育の姿
世界中の多くの教師たちは、教育改革の命令と、想像力を奪いかねない教育の実情に苦しんでいる。しかしその中でも、現在の組織やシステムの枠を外れて、子どもたちの能力を高める教育を行っている学校や、教育者たちが数多く存在する。
画一主義に抗って子ども一人ひとりを見ていく学校、授業を通じて子どもたちが自ら学びはじめるような優れた教師、ICTを用いてインターネットを通じて子どもの学びを深める組織、家庭での学びを確かにするホームスクーリング……
今現在でも、子どもの想像性を生み出す多くの取り組みが存在している。本書で紹介する、そうした世界最先端の学校の姿から、変化し続ける社会で、自分らしく個性や才能を発揮できるための、未来の教育の姿を読み取って頂きたい。